プログラム

特集:ユートピア 夢想の発火点

“理想の世界”という考えは、すでに滅んだのだろうか? われわれが“理想”について正面から語ることはほぼ稀になってしまった。しかし、理想の世界に対する人間の希求はやまず、それはわれわれの想像そして創造的原泉を刺激してやまない。アレクセイ・ゲルマンの『神様はつらい』で描かれるのは、混沌としたディストピア。1964年に構想された本作は、68年のプラハの春に直面したソ連当局によって脚本執筆段階でお蔵入りとなり、体制崩壊後20年近くたって現在の世界に蘇った。当時の体制に対する痛烈な批判だったかもしれないこの作品を、映画作家はなぜ現在にむけて投げかけたのだろうか。 「私は、世界そして文明を丸ごと無から構築することの可能性にしか興味がないのだ」(アレクセイ・ゲルマン)。 
京都国立国際会館と建築家の個人宅「塔の家」。1966年に建てられた建築の設計に込められた当時の理想とその現在の姿を描いた2作品を上映するプログラム「建築:昨日・明日をこえて」。資本主義的原理に還元されない純粋なアートの世界を追い求め、その徹底ぶりによって身を滅ぼすことになったジャック・スミスの特集や、建築的身体によって人間を肉体的・精神的な制限から解き放とうとしていた荒川修作の思想が凝縮された映像作品集など、「特集:ユートピア 夢想の発火点」では、すべてが説明されなくてはならないこの世において、不可能な世界を思い描くことの力について考える。
 

 
 

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