プログラム

ハル

ハル
 

長屋美保/1995/8ミリ/カラー/56分
   
カメラはカマラだと荒木経惟は言い、「映画に必要なものとは、銃と女、それだけだ」とゴダールは言った。果たしてそうだろうか?
男の身体を接写でなめ回すように撮影し、太ももや頬にマイクを押しつけ、ジョリジョリと毛髭が擦れる音を録音する作者。彼女の欲望は単なるフェティシズムにとどまらない。威張り散らすので嫌いだったという祖父の遺骨の欠片をハルの頬になすり付けるに至っては、この撮影行為は男性性そのものへの復讐の様相さえ呈し始める。いっぽうで作者のハルに対する想いやほとばしる欲望は不可避的にフィルムに定着されており、そこでまた異性愛者としてのジレンマというセクシュアリティ論が見事に視覚化される。
1990年代の日本に登場した多くの女性アーティストたち(特にマンガ、写真、映像の分野で)は、その作品において既成の恋愛論や家族論に疑問を投じ、新たな性愛コミュニケーション・家族論の到来を予感させた。そうした文化的背景にあって『ハル』は、当時の日本におけるセクシュアリティ/ジェンダー論のリアリティを明確に映像化した作品だといえる。(山下宏洋)
 

長屋美保

1972年生まれ。イメージフォーラム付属映像研究所第17期・18期修了。『海の花』(94)でイメージフォーラム・フェスティバル1995大賞受賞。現在はメキシコシティで、ラテン文化ライターとして活動し、アジア食堂を営む。主な作品:『天使待ち』(95)、『水星』(95)。
  

上映日

東京:4/30 16:00, 5/2 16:00 プログラム V6
京都:5/18 16:30 プログラム V6

 
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