プログラム

R ダダ100年:フルックス・フィルム

36作品122分

 

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ダダイズムと未来派の影響を受け、美術における既成の概念を<遊び>の感覚で軽々と飛び越えようとした運動、フルクサス。その中心人物ジョージ・マチューナスによって集成された37本の短編映画集がフルックス・フィルムである。マチューナスはこのシリーズで映画という概念自体も飛び越えようと考え、これらの作品はマルチ・プロジェクションやインスタレーション、フリップ・ブックという形で展示することも試みていた。ダダイズムのスイス・チューリッヒでの誕生から100年を記念して、貴重な16ミリプリントで上映。5月4日18:45の回は、映像作家ピップ・ショドロフによる解説あり。
 
ジョージ・マチューナスが1966年を起点に集成し始めたこれらの37本の映画作品は、ジョナス・メカスによってニューヨークのアンソロジー・フィルム・アーカイブに1992年に収蔵された。いまだにいくつかの作品が消失したままだが、1978年にマチューナスが亡くなって以降現在に至るまで、今回のものが最も多くの作品が集積されたバージョンである。マチューナスは、時々作品のセレクションや順番を、彼が最も合うと感じた形に変えた。1966年の夏に40分の短いバージョンが作られ、同じ年の冬にそのバージョンは100分にまで延長された。1974年のバージョンでは2300フィート、64分だった。
「フルックス・フィルム・アンソロジー」は、フルクサスがおこなった音楽レコーディング、出版、フルックス・フードと呼ばれたテーマを持った料理ミーティングなどのコレクティブ的制作の一例である。本プログラムは、著名なアメリカのアン・アーバー・インディペンデント映画祭で1966年に審査員賞を受賞している。
参加アーティストたちは、60年代と70年代のアメリカのアヴァンギャルド映画において重要な位置を占めた作品の作者ジョージ・ランドウとポール・シャリッツ、そして美術館がそのフィルモグラフィーを過去10年間にわたって彼女の創作活動の一環として認めていたオノ・ヨーコを除き、映画作家としては殆ど知られていなかった。
ジョージ・マチューナスはしばしばフルックス・フィルムのプログラムを「メートル単位のアート(art by the meter)」として展示した。それは「フルックス・フィルム・ウォールペーパー」という表題のもと壁面上に展開された。短編映画が「フルックス・スペース・センター」、時には「カプセル」として知られる四角い空間の中でループ上映された。その空間は、幅が約3.5メートルで、白い綿あるいはビニールシートで作られており外部の光を遮光することができるようになっていた。こうした展示環境にはしばしば音楽が伴っていた。例えばディック・ヒギンズの『峡谷と巨岩のための呪文』にはワーグナーのレクイエム、またマチューナスの『artype』やオノ・ヨーコの『4』、『まばたき』といった作品のループ上映時には街角の音が増幅して流されていた。
フルックス・フィルムは、一枚一枚の紙を素早くフリップすることで連続写真が動きのイリュージョンを生みアニメーション映画の原理を示す小さな手帳、フリップブックとしても存在した。運びやすいフリップブックは、いつでもどこでも見られるという点でオリジナルな映画の見方でもあると言えよう。当初マチューナスは、全てのフルックス・フィルム作品をフリップブックにしたいと考えていたが、ディック・ヒギンズの『峡谷と巨岩のための呪文』と塩見允枝子の『顔のための消失する音楽』のみがこの形式で出版された。これらの小さな本や8ミリや16ミリフィルムのループ作品は、郵便による通信で廉価に販売されていた。これは映画館で映画を上映する以外の形式で作品を流通させる試みを模索したものであった。この流通プロセスは、芸術作品を美術館の外へと広げて多くの人が接することができるものにした。芸術オブジェとしての映像を大衆化するこの試みは、ポスターやビデオのような複製品や記録物とは違い、フルックス・フィルムのフィルム作品としてアイデンティティを保ちつつ、購入者がそれぞれの「ドゥー・イット・ユアセルフ」的な展示の仕方で自由に作品を再定義できるものであった。それぞれの箱に入れて売られたフィルム・ループ作品は、あたかも取り替え可能な壁紙であるかのように純粋に装飾的な利用目的のものとして考えられた。60年代に始められたマチューナスによるこのような大衆化は、消費社会のユートピア的転生として捉えられている。
1980年代アート市場の狂乱めいた輝きの文脈を鑑みれば、アートを大衆化し、それをガラスの温室から取り戻そうというマチューナスの試みは失敗に終ったようにみえるかも知れない。実際に映画祭プログラマーたちがこれらの作品をマルチ・スクリーンのインスタレーションやループ・イベントとして上演することは非常に珍しくなってしまい、伝統的な映写形式のみを正しいとするような考え方を越えた、さまざまな展示方法を見つけようと試みたマチューナスの願望は現在においては尊重されていない。配給組織やシネマテークは、このフルック・スフィルム作品集のプリントを分けて上映したがらない。ゆえにこの作品集は、観客に順番通りに上映する美術館やアートセンターのものとして格下げされており、そういう意味では動物園の動物たちと同じようにその出生地から遠く離れた状態にあると言える。
—メーヴァ・オールベールのフルックス・フィルムについての講演より(抜粋)

 
フルックス・フィルム1: ゼン・フォー・フィルム ナム・ジュン・パイク/16ミリ/7分/1964(アメリカ)
フルックス・フィルム2: 峡谷と巨岩のための呪文 ディック・ヒギンズ/16ミリ/1分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム3: エンド・アフター9 ジョージ・マチューナス/16ミリ/1分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム4: 顔のための消失する音楽 塩見允枝子/16ミリ/11分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム5: ブリンク ジョン・カヴァナー/16ミリ/3分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム6: 9分 ジェームス・リドル/16ミリ/9分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム7: 10フィート ジョージ・マチューナス/16ミリ/28秒/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム8: 1000コマ ジョージ・マチューナス/16ミリ/42秒/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム9: まばたき オノ・ヨーコ/16ミリ/1分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム10: 入り口から出口へ ジョージ・ブレクト/16ミリ/7分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム11: トレース22番 ロバート・ワッツ/16ミリ/2分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム12: トレース23番 ロバート・ワッツ/16ミリ/3分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム13: トレース24番 ロバート・ワッツ/16ミリ/2分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム14: ワン オノ・ヨーコ/16ミリ/5分/1967(アメリカ)
フルックス・フィルム15: まばたき オノ・ヨーコ/16ミリ/1分/1967(アメリカ)
フルックス・フィルム16: 4 オノ・ヨーコ/16ミリ/6分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム17: 朝の5時 ピーター・ヴァンダビーク/16ミリ/5分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム18: スモーキング ジョー・ジョーンズ/16ミリ/6分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム19: オーパス74バージョン2 エリック・アンダーセン/16ミリ/2分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム20: artype ジョージ・マチューナス/16ミリ/4分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム22: シャウト ジェフ・パーキンス/16ミリ/2分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム23: 汝の頭の中の太陽 ヴォルフ・フォステル/16ミリ/6分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム24: レディメイド アルバート・フィン/16ミリ/1分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム25: 邪悪なようせい ジョージ・ランドウ/16ミリ/3分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム26: シアーズのカタログ ポール・シャリッツ/16ミリ/1分/1965(アメリカ)
フルックス・フィルム27: 点1&3 ポール・シャリッツ/16ミリ/1分/1965(アメリカ)
フルックス・フィルム28: 手首トリック、アンローリング・イベント ポール・シャリッツ/16ミリ/3分/1965(アメリカ)
フルックス・フィルム29: ワード・ムービー ポール・シャリッツ/16ミリ/4分/1965(アメリカ)
フルックス・フィルム30: ダンス アルバート・フィン/16ミリ/2分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム31: ポリス・カー ジョン・ケイル/16ミリ/1分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム36: 無題 ピーター・ケネディ+マイク・パー/16ミリ/2分/1970(アメリカ)
フルックス・フィルム37: 無題 ピーター・ケネディ+マイク・パー/16ミリ/2分/1970(アメリカ)
フルックス・フィルム38: 私は見ない私は分からない私は話さない ベン・ヴォーティエ/16ミリ/7分/1966(アメリカ)
フルックス・フィルム39: ニース港を泳いで渡る ベン・ヴォーティエ/16ミリ/5分/1963(アメリカ)
フルックス・フィルム40: 励む ベン・ヴォーティエ/16ミリ/2分/1969(アメリカ)
フルックス・フィルム41: 私を見れば充分です ベン・ヴォーティエ/16ミリ/3分/1962(アメリカ)
 

上映日

東京:5/4 18:45 プログラム R
京都:5/21 13:45 プログラム R
福岡:6/5 16:10 プログラム R
名古屋:6/25 17:00 プログラム R
横浜:7/17 11:30 プログラム R 
 
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