プログラム

W ANIME-ASEAN 1 残酷までに率直: シンガポール・アニメーションの新しい風

9作品49分+講演70分

 

ピフスキン

 

グレート・エスケープ

 

142B号棟の虎

 

最後の一滴

 

孤独の5つの影

 

世界の見方

 

ダウンタウン

 

オブセッション

 

スリー・ザ・ピーフッド

シンガポールにおけるインディペンデント・アニメーションの道のりはまだほぼ未踏であり、ゆえにどの道も似たような状況である。シンガポールは若い国とよく言われているが、シンガポールのアニメーション史も言うまでもなく非常に日が浅い。政府や商業的な制限から自由に、完全な個人の表現として芸術的内容を持った作品を創作するインディペンデント・アニメーション作家たちの集団が生まれつつある状況を我々が目にするようになったのは、ここ10年のことである。現在は両手に余るほど―とりわけヘンリーとハリー・チュワン(双子の彼らが生み出すシナジーは興味深い)カピー・イーパック、シュリニバス・バクタ、アーヴィン・ハン、アン・チィン・ションといった人たちなど―のアーティストがいる。私もまたアニメーション・アーティストの一人であるので、作品紹介にあたってはクリエイターとオブサーバーの両方の視点から伝えなくてはいけないと思っている。そうすることでシンガポールのインディペンデント・アニメーションの現状を適切に検討したい。多くのシンガポール人にとってでさえ、インディペンデント・アニメーションはわかりにくいメディアで、目立たない存在になりがちである。国営テレビにはアニメーションの枠は十分にあるが、芸術として扱われる作品が放映されることはめったにない。ここで紹介するのは、国内外の映画祭で話題になった、表現の幅を押し広げたアニメーション映画群からのセレクションである。それぞれの作品は、全く異なった題材を扱っている。これらの作品の制作時、作家たちは先人がほとんどいない状況の中、発見や実験を行っている段階であった。インディペンデントな表現を見つけるには時間がかかる。様々な外的影響によって、彼らはクリエイティブなアイデンティティーを持ち得たのだ。シンガポールは多文化のるつぼなので、シンガポールのアニメーション作品においてアイデンティティーの探求は共通のテーマとしてあり、作品は国籍を持つのか? それは問題なのか? という議論がある。バクタの一連の作品はインドとシンガポールにまたがっているし、私は東京で『ピフスキン』を制作したが、作品のクレジットはいつも“シンガポール”だ。ベトナムで生まれ、シンガポールでアニメーションを学んだカピー・イーパックは、面白い意見を述べている。たいした問題ではないから、むしろ自分の作品をどの国ともしないと言うのだ。どこを拠点にしても活動できる状況において、作品の国籍という細かなことにこだわるのは意味がない。作品の国籍は制作国かもしれないし、作家の国籍かもしれないし、あるいは作家自身がそこだと認識している国かもしれないのだ。メディア産業を構築するために、シンガポール経済開発庁は補助金やインセンティブを用意することで、海外企業がシンガポールでビジネスを始めるのを促している。そしてそれはある程度の効果をあげた。2005年にはルーカスフィルム・シンガポール、ユービーアイソフト、ダブル・ネガティブがオープンし、その後の数年でその他の企業も参入した。それは地元のクリエイティブ産業に仕事をもたらし、これら一流企業の抱えるプロジェクトの映像の業績のある部分を担うようになっていった。シンガポールにおける彼らの存在は国際的な注目を集め、ダブル・ネガティブがシンガポールからの撤退を発表した際には最近のトップニュースにもなった。
学校という場は、インディペンデントな表現を育てるのに素晴らしい場所だ。アカデミックな分野では、アニメーションの監督と技術の両方を教える学校が増えている。しかし、真の挑戦はその後にどうなるかだ。卒業してからの2年間はたいていとても重要な時期であり、アニメーション専攻の学部生に教えることになる。それは、やりたいことと収入という、理想と現実のギャップの苦しみが現実としてのしかかってくる時期である。迷いと不確かさを抱え、期待への妥協をする時期だ。重要な気鋭の存在であるヘンリー・チュワン+ハリー・チュワンは、その時期を経て2013年に「Weaving Clouds」を創設している。作家主義的なアニメーションを作り続ける決意は厳しいものであり、多くはアニメーション制作から離れていく。
アニメーション作品の応募を受け付ける映画祭には感謝している。なぜなら、それによって私たちの作品が観客に出会うことが出来るからだ。これまでずっとシンガポール国際映画祭やシンガポール・ショート・カッツ、そして近年のカートゥーンズ・アンダーグラウンドは、アニメーション作品のショウケースとして重要なプラットフォームになっている。これらの映画祭によって、インディペンデント・アニメーション文化に関する知識が深められ、人々の興味を喚起することができる。アニメーション・シーンを一から作っている日本、韓国、中国を参考にすることもできる。活気に満ちたアニメーション・コミュニティーを形成するには時間がかかるし、いくつもの力強い声が必要だ。私たちは声をあげはじめているのだろうか?シンガポールのアニメーションを皆さんにご覧いただけることを大変光栄かつ嬉しく思う。このプログラムによって、シンガポールのインディペンデント・アニメーションの意義を更に理解していただけたらと願う。楽しんでください!

タン・ウェイ・キョン

 

 
日本と東南アジアのインディペンデント・アニメーションの交流を図るプロジェクト「ANIME-ASEAN」による、日本ではいまだに全貌が見えない東南アジアのインディペンデント・アニメーションを紹介する特別プログラム。シンガポールの今後を担う若い才能2名を招聘し、講演付きで、近年の秀作を一望する。
プログラム・キュレーション:タン・ウェイ・キョン+土居伸彰(アニメーション研究者、ニューディアー代表)
 
ピフスキン タン・ウェイ・キョン/ビデオ/5分/2014(シンガポール)
グレート・エスケープ タン・ウェイ・キョン/ビデオ/6分/2015(シンガポール)
142B号棟の虎 ヘンリー・チュワン+ハリー・チュワン/ビデオ/11分/2015(シンガポール)
最後の一滴 シュリニバス・バクタ/ビデオ/6分/2000(シンガポール)
孤独の5つの影 アン・チィン・ション/ビデオ/9分/2015(シンガポール)
世界の見方 ジェロルド・チョン/ビデオ/4分/2015(シンガポール)
ダウンタウン カピー・イーパック/ビデオ/2分/2013(シンガポール)
オブセッション カピー・イーパック/ビデオ/2分/2013(シンガポール)
スリー・ザ・ピーフッド カピー・イーパック/ビデオ/4分/2015(シンガポール)
 
講演: シンガポール・アニメーションの今(約70分)
登壇者: タン・ウェイ・キョン、カピー・イーパック

 

上映日

東京:5/6 16:00 プログラム W 
 
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