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神聖なる22人の牧地マリ人の妻たち

神聖なる22人の牧地マリ人の妻たち
 

2012/デジタル/106分/ロシア
  
アレクセイ・フョードルチェンコ監督(『サイレント・ソウル』)の新作は、異教的な影響の強いロシア西部の牧地マリ人たちの慣習に光を当てた23の断片で構成されている。女性の美しさや性のあり方ついて慣習的な認識にとらわれた文化を、魅力的に、絵画的に描く。
 
ロシア西部に住むフィン・ウゴル語族の牧地マリ人の社会では、自然崇拝的な民間伝承がいまも息づいている。アレクセイ・フョードルチェンコの新作は、複数のマリ人女性たちの性生活を中心に置いた23の断片からなる。女性の肥沃さと美しさ、そして結局は彼女たちの幸福によって突き動かされる独特のマジック・リアリズム的世界を再現している。
『神聖なる22人の牧地マリ人の妻たち』に登場する女性たちの名前の頭文字はすべて「O」だ。オカナイ、オシャニャグは、発育がよくなるようにと裸の身体を叔母にこすられる。オシュチレエーチェは理想的な夫を選ぶのに役立つようにとバケツいっぱいの男根のようなキノコを丹念に調べる。そしてオーニャは友だちにそそのかされ、夫の股間の匂いを嗅ぐことで浮気の確証を得ようとする。いずれの物語でも、マリの人々の文化に根ざす愛と性が親しみをこめて描かれる。
 
しかし本作は、民間伝承に含まれる闇の部分にも背を向けない。森の精霊の呪いに屈したオロプチーの悲劇的な末路。年端もゆかないオルマルチェは、男の亡霊たちの気まぐれに乗せられて裸で踊る年上の少女たちを目撃する。すべての寓話は女性性を、そしてマリの慣習のなかで(さらにはそれを超えて)女性たちが持つ力を、賞賛している。
 
再び脚本家のデニス・オソキンと組み、フョードルチェンコは消えゆくマリ文化に関心を寄せ続ける。2010年の『サイレント・ソウルズ』に見られた、あきらめや哀愁を帯びたアプローチは封印され、豊かな青を使った高揚感のある色彩の広がりや、透き通る肌の女優たち(プロとアマチュアの両方)を起用して、世俗的な近代性に染まらない地方生活を絵画的な画面で展開した。ときにグロテスクだが、決して批判的ではなく、民間伝承的な世界で生き続ける文化をやさしく魅力的に描いた本作を観る者は、マリの人々と共にその世界を祝福したくなるだろう。
 

アレクセイ・フョードルチェンコ

1966年ロシア・オレンブルク州のソリ=イレツクに生まれ、その後エカテリンブルグに移り現在も居住。工学を勉強した後、VGIK(全ロシア映画大学)でドラマツルギーを学び、卒業。2004年に“Kinokompaniya 29-e Fevralya”(映画会社2月29日)を設立し、監督、プロデューサー、スーパーバイザーを務める。長編デビュー作『ファースト・オン・ザ・ムーン』で、第62回ヴェネチア映画祭にてオリゾンティ・ドキュメンタリー賞を受賞。2010年に再びヴェネチア映画祭に出品した『サイレント・ソウル』は、大地や水と限りなく親密にあるフィン・ウゴル語族の登場人物たちを描いた、瞑想的で詩的な物語。コンペ部門の撮影賞と国際批評家連盟賞を受賞した。フョードルチェンコの作品は、支配的文化が優位に立つことにいまも抵抗を試みる人々の持つ伝統や習慣を追い求める。『サイレント・ソウル』は他にアブダビやマル・デル・プラタ、ウラジオストックの映画祭でも受賞している。2012年には “Vivat kino Rossii(ロシア映画万歳)” 映画祭で短編『四次元』が審査員特別賞に選ばれた。同年ローマ国際映画祭で『神聖なる22人の牧地マリ人の妻たち』を発表。マリ人女性たちにまつわる23の断片からなる本作は、マジックとリアリズムの間を浮遊する『デカメロン』的作品。翌年にはトロント国際映画祭のヴァンガード部門に選出され、ブロツワフ映画祭で受賞。最新作は『エンジェルズ・オブ・レボリューション』(2014)。
 

上映日

東京 パークタワーホール:5/6 11:30 Mプログラム
京都:5/18 18:50 Mプログラム
横浜:5/30 11:30 Mプログラム

 
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