プログラム

N:O:T:H:I:N:G

 

1968/16ミリ/36分(アメリカ)
  
五智如来を描いたチベットの曼荼羅を(部分的に)基盤としている。究極的な智(法界体性智)の中心に向かう旅/描きとられたというよりも、むしろ生み出された空間と動き/時間-色彩のエネルギーが生み出す仮想的な形/反転した時間の流れでは、発展は逆向きの腐敗である。
 
「ポール・シャリッツの『N:O:T:H:I:N:G』で照らし出されるスクリーンは、時に球体をしているように見える。それはおそらく、点滅するフレームが作り出す真珠のような質感の光のためだ。いびつな真珠とも言えよう。驚異的だ!(略)これまで見た中で、最も美しい映画。」−スタン・ブラッケージ
 
「観客は色彩の世界に引き込まれ、色の感覚が広がって豊かなものになる。日常生活の中にある色のトーンまで変わって見えることに気づくはずだ。視覚が変化するのだ。身の回りの物に当たる光が、目に見えるようになるだろう。(略)経験の幅も広がる。新しい洞察力が備わったのだ。あなたは、より豊かな人間になっているはずだ。」−ジョナス・メカス
 
「突きつめれば、重要なフリッカー映画は3本しか作られていない。『アーヌルフ・ライナー』、『フリッカー』、そして『N:O:T:H:I:N:G』だ。(略)ここで論じたテーマから言うと、フリッカーを使って構造映画という領域を切り開いたのは、シャリッツの『N:O:T:H:I:N:G』である。」−P・アダムス・シトニー
 

ポール・シャリッツ

アメリカのアヴァンギャルド「実験」映画作家でアーティスト、メディア研究の教授でもあるポール・シャリッツは1943年2月7日にコロラド州デンバーで生まれた。不幸にも1993年7月8日にニューヨーク州バファローの自宅で死亡。彼の息子クリストファーと息子の妻シェリー、3人の孫たちが残された。シャリッツは構造映画の作家として、複数の映写機の使用やフィルムの無限ループなどの技法や、実験的なサウンドトラック、上映という形態の基本様式を意識させるべくフィルムそのものに介入する手法などで知られている。デンバー大学芸術学部で美術学士号を取得。当時は若き画家として知られていたが、すでに高校時代から映画を作っていた。デンバー大で美術を学びつつ、スタン・ブラッケージに師事するようになる。2人はすぐに友人関係を築き、それは生涯にわたって続いた。ブラッケージの実験的な「スクラッチ」映画に見られる、映画の構造を操作する手法の影響はシャリッツの初期作品に明白である。1964年にはブルーミントンのインディアナ大学の修士課程に入学しヴィジュアルデザインを専攻した。修士号取得後、息子のクリストファーと妻のフランシスと共にメリーランド州ボルティモアに移住し、メリーランド・インスティチュート・カレッジ・オブ・アートで教える。その後、オハイオ州イエロースプリングスのアンティオーク大学で教え、同校メディア研究センター設立の立役者となった。1968年に離婚。そのすぐ後、ジェラルド・オグレイディの誘いでバッファロー大学のメディア研究センターに職を得た。当時の同僚には、ジェイムズ・ブルー、ホリス・フランプトン、トニー・バノン、トニー・コンラッド、後にはペーター・ヴァイベルら、実験映画の才能ある新鋭たちが数多くいた。シャリッツの作品は生前すでにかなり認知され、バイカート・ギャラリーやオルブライト=ノックス美術館、ウォーカー・アートセンターやその他の場所で展示が行われ、没後にはホイットニー美術館、MoMA、ポンピドゥー・センター、ルーブル美術館やバッファローのバーチフィールド=ペニー・アートセンターなどでも開催された。なかでも、絵画作品と共に4台のプロジェクターを使用するインスタレーション「シャッター・インターフェイス」を見せたグリーン・ナフタリ・ギャラリーでの展示は、2009年にニューヨークのグッゲンハイム美術館での「ファースト・アニュアル・アート・アワーズ」で年間最優秀個展賞を贈られた。プロジェクター4台を使うインスタレーション「シャッター・インターフェイス」はその後、ワシントンD.C.にあるスミソニアン協会ハーシュホーン美術館に購入され、展示されている。初めは絵画を学び、また理論家として多くの著述を残したシャリッツの作家活動は実に幅広い領域にわたる。初期にはニューヨークでフルクサスの面々と関わりがあったこともそれを証明している。図表から抽象映画のスコア、ファッション・イラスト、そして幻覚的な描画作品まで、彼が紙の上に残した数多くの作品についてはまだ今後、すでに広く知られている他の作品群のなかにしっかりと組み込まれていく必要があるだろう。

クリストファー・シャリッツ, 2010

 

上映日

東京 パークタワーホール:5/2 16:15 Tプログラム、5/6 13:45 Tプログラム
名古屋:6/28 13:10 Tプログラム

 
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