奇跡の宮廷
グローリー・ボーイズ
テリトリーズ
サイキックTV:アンクリーン
1980年代初頭、クラバー、美大生、ニュー・ロマンティック、そしてポストパンク・シーンの人々は安価で身近なテクノロジーを用いて新しい表現手法を探り、メインストリームのメディアに対抗した。執念深く検閲を逃れたインディペンデントなVHSテープが販売され、また、スーパー8は安価にも関わらず極めて詩的で直接的な表現ができるメディアとして受け入れられていた。パンクのDIYなアプローチがパワフルに蘇ったのだ。それは、新たな視点や声が挙った時代でもあった。女性やゲイ、黒人の映画作家らが台頭していたが、同時に彼らの多くは友人同士でもあり、アパートにスクウォットし、クラブに通い、新しいスタイルと技術を共に発展させていった。
デレク・ジャーマンとの仕事がない時は、ジョン・メイブリーとケリス・ウィン・エヴァンスはスーパー8集団の中でその先駆けとして活躍していた。友人であるリー・バウリーやスージー・スーをキャスティングし、断片からなる夢幻的なシナリオの作品を作っていた。アイザック・ジュリアンとグレイソン・ペリーも映画を作っていたし、その後ポップミュージック・ビデオ監督として名をあげる若き日のソフィー・ミュラーもやはり映画を作っていた。
同じ頃、短い間ではあったが大きな影響を残したスクラッチ・ビデオ・ムーブメントのアーティストたちは、ポピュラー映画やテレビの素材をズタズタにし変質させ、濃密でリズミカルなモンタージュ作品を生み出していた。それらは多くの場合、ウィットにも富んでいた。
これらのプログラムでは、メディアが生み出すイメージとアイデンティティーの曖昧な境界線を探求し、自己と世界の新しい対話を生み出した1980年代初頭の作品を集めている。それは不安定な政治的論争の時代であり、生活の役に立つテクノロジーがでてきたことで人々の間にひずみも生んでいた時代だった。まるで今日のインターネットのように。アーティストたちは、イメージやテクノロジーが何なのかを考え、真の意味を探っていた。
これらのプログラムに含まれる8mmや16mmの作品の多くは30年もの間上映されることがなかったが、現在BFI国立アーカイブが進めている、重要であるにも関わらず無視されてきたイギリス実験映画の歴史的作品を復元するプロジェクトの一部として、近年2Kスキャンでリマスターされた。
映像作家の新しい世代がポストモダン社会の到来を告げる。そこでは映像のモラル、政治、意味性が徹底的に問い直される。デレク・ジャーマンと映画を共同で作っていたジョン・ メイブリーは、スージー・スーとファッション・デザイナーのデヴィッド・ホラーをキャステイングし 野心的作品『奇跡の宮廷』をスーパー8で作りあげた。
これらの濃厚な映画では、映像そのもののモラル、政治、意味性を徹底的に問いただし、その意味が転倒している。ジョン・メイブリーがスージー・スーとファッション・デザイナーのデヴィッド・ホラーをキャスティングし、実存的ジェンダー・ファック作品『奇跡の宮廷』は、当時のスーパー8作品の中でも際立って素晴らしく、野心的なものだった。
奇跡の宮廷 ジョン・メイブリー、出演:スージー・スー/8ミリ(デジタル版上映)/44分/1982(イギリス)
グローリー・ボーイズ ヴァンダ・カーター/8ミリ(デジタル版上映)/3分/1983(イギリス)
テリトリーズ アイザック・ジュリアン/16ミリ(デジタル版上映)/24分/1984(イギリス)
サイキックTV:アンクリーン ケリス・ウィン・エヴァンス+ジョン・メイブリー/ビデオ/9分/1984(イギリス)
※一部過激な暴力的・性的表現が含まれるため18歳未満の方の入場をお断りします下さい。