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ジャパン・トゥモロウ最終審査総評

[2015.05.11]

審査総評
  
 今回ノミネートされた作品は様々なアプローチがあり、実に多様なプログラムでした。アニメーションや物語映画の技巧に基づきそれを発展させたいろいろな作品がある一方で、枠組みにとらわれずに自由な発想で制作した作品もありました。また、東京以外の地域から集まった作品を見られたのも興味深かったことです。

 そのような多様な作品の中から受賞作を選ぶことは実際容易ではなく、「ジャパン・トゥモロウ」という名を冠するコンペの賞を選ぶにあたって、私たちは、次の二点を重要な評価基準としました。それは、チャレンジする精神、そして正直に自らの表現に向き合っているかということです。もちろん、ノミネートされた作品はいずれも作家にとっては野心的であり、誠実なものに違いないでしょうが、審査員として強く印象を受けた作品を、今日より明日へ背中を押すつもりで受賞作としました。以下、受賞作について簡単にコメントします。

 まず優秀賞三作について。『息ができない』は、卒業制作としては極めて完成度の高い作品であり、サンド(砂)アニメーションという技法を使って水のテクスチャーを繊細に描き出した点に、作者のオリジナリティを感じました。また、子供の遊びと恐怖という普遍的な主題をシンプルに表現した点も評価しました。

 『in the room』は、強い視覚的なリズムを持った作品でした。フィルムという素材を活かし、映写機とミシンのアナロジーに着目した実験性とともに、それが「引き裂かれ、縫い合わせる」という張りつめた緊張感を生み出すドラマ性に繋がったことも評価した点です。

 『Green Glows』は、「食べて、愛して、生きる」という命の根源への畏れを神秘的な世界観で表現した作品でした。その情念の深さが映像として強く印象を残したので、評価することにしました。

 寺山修司賞受賞の『蝕みの花』は、作品の完成度という点ではさまざまな意見がありました。しかし、対象への欲望とそれを表現することへの葛藤が誠実に表れた作品でした。パーソナルなテーマを扱いながら単なる個人的なエッセイで終わらず、話し言葉のような映像スタイルでありながら書き言葉のようにしっかりした構造があり、映像作品として構成することへの意思が見てとれました。よって、表現者としての可能性に対して寺山修司賞を贈ろうと判断しました。

 大賞受賞の『その家の名前』は、廃屋が崩れ壊れゆくアニメーションを、実物を使って制作することによって、時間芸術である映画を空間的に表現しようというチャレンジングなコンセプトを持つ作品であり、うつろう光を捉えた美しいショットも際立っていました。制作現場のある種の即興性がスリリングで、そうしたアプローチにより廃屋の時空が有機的な運動をもって再現され、アニメーションが映像の自生力を表現することを示した点を秀逸だと評価しました。

 さて、最後になりましたが、はじめに述べた通り、今回の選考では、明日への挑戦と誠実な姿勢に重きを置きました。そうした意味では、むしろ選ばれなかった作家たちの未来にこそ期待したいと、私たちは思っています。
 

イメージフォーラム・フェスティバル2015

ジャパン・トゥモロウ最終審査員

斉藤綾子

七里圭

ヨースト・レクフェルト

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